TKSS等の日記

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差分方程式とガンマ関数

そんなに大層な内容ではないのですが、
差分作用素Δ+xf(x)={f(x+d)-f(x)}/dと
ガンマ関数の関連について


差分作用素Δ+x微分作用素
f'(x)=lim[d→0]{f(x+d)-f(x)}/dの離散化なわけですが
極限操作なので、それをしていいか確認するのは面倒なことは多いのですが
極限を取っているがゆえに余分な物が綺麗になくなってしまう、
美しい結果が出る。と言うのは往々にしてあったりします。
対して、差分では極限操作を含まないので、何をやったって自由。
有限的な操作だけで完結するので、計算機にも乗ります。
が、それで得られる結果は概して色々とごてごてしたわかりづらい物であったりします。
例えば積の微分が(fg)'=f'g+fg'とシンプルな形であるのに対して
それを差分化するとΔ+x{f(x)g(x)}={Δ+xf(x)}g(x)+f(x+d){Δ+xg(x)}
と言う今ひとつしっくりこない物になってしまったりします。


さて、微分作用素では (xα)'=αxα-1
がどのようなα∈Cでも成り立ちました。これはやや面倒な言い換えをすれば
連続パラメータをもつ関数の集合{fα}α∈C
微分作用素に対してfα'=αfα-1を満たす物はなにか?
という問いに対する応えが{xα}α∈Cである、という事になります。
ある作用素に対して、このような性質をもつ集合があることは
その作用その振る舞いを調べる上で大切です。では差分作用素に対して
このような関数の集合はどう記述されるのでしょうか?
{xα}α∈Cではないことはすぐにわかります
Δ+xx2=2x+dとなり、微分では0になってくれるdが残ってしまいます。
少し工夫してn∈Nに対してfn(x)=x(x-d)(x-2d)…{x-(n-1)d}=Π[k=0,n-1](x-kd)
を考えると、
Δ+xfn(x)=nfn-1(x)となる事がわかります。
fn(x)は形もnこのxの1次式の積だしd→0とすればxnになるので
{xn}n∈Nの差分における対応物と言ってよさそうです。
では負ベキでは?、有理ベキでは?もっと言って複素ベキでは?
有理ベキくらいならともかくそれ以上ではこのような定義ではどうにもならなそうです。
そこで出てくるのがガンマ関数という事になります。
ガンマ関数はΓ(x+1)=xΓ(x)と言う性質をもちます。
この性質はいかにも差分とは相性がよさそうです。
実際、上のfn(x)はガンマ関数を使って書いてやる事が出来ます。
Γ(x/d+1)=(x/d)(x/d-1)…{x/d-(n-1)}Γ(x/d-n+1)=d-nfn(x)Γ(x/d-n+1)
となるのでfn(x)=dnΓ(x/d+1)/Γ(x/d+1-n)
と表せます。そしてこれを定義とすれば自然数nを一般の複素数に拡張する事も容易です。
実際fα=dαΓ(x/d+1)/Γ(x/d+1-α)
と定めると
Δ+xfα(x)
={dαΓ(x/d+2)/Γ(x/d+2-α)-dαΓ(x/d+1)/Γ(x/d+1-α)}/d
=dα-1Γ(x/d+1)/Γ(x/d+1-α){(x/d+1)/(x/d+1-α)-1}
=α/(x/d+1-α)dα-1Γ(x/d+1)/Γ(x/d+1-α)
=αdα-1Γ(x/d+1)/Γ(x/d+1-α+1)
=αdα-1Γ(x/d+1)/Γ(x/d+1-{α-1})
=αfα-1(x)
となり、求める関数の集合が構成できたことになります。
ちなみにガンマ関数の引数の中の+1は無くても、上で定めたfnと少し形が変わるだけで
性質自体は保たれます。好みで変えて差し支えないので省く事にします。


さて、欲しい物が求まって良かった、とは言うもののちょっと引っかからないでもありません。
fα(x)=dαΓ(x/d)/Γ(x/d-α)はxαとは似ても似つきません。
Γ(x)なんて書くとこざっぱりしてますが、
そもそもガンマ関数は広義積分によって定められる関数です。
このfα(x)とxαには関連性はあるのでしょうか?
実はd→+0とするとfα(x)→xαとなり
fα(x)がxαの一種の差分化になっている事がわかります。
ひとまずRe(α)>0を仮定します。
fα(x)=dαΓ(x/d)/Γ(x/d-α)はガンマ関数とベータ関数の関係式から
fα(x)=dαΓ(α)/Β(α,x/d-α)と分かるので
lim[d→+0]dα/Β(α,x/d-α) を計算すればよいことになります。
x/d=yとするとy→+∞を考えればよくなり、この書き換えにより
lim[d→+0]dα/Β(α,x/d-α)=lim[y→+∞]xα/{yαΒ(α,y-α)}
となるのでlim[y→+∞]yαΒ(α,y-α)を計算できればOKとなります。
Β関数の定義に戻れば
lim[y→+∞]yαΒ(α,y-α)
=lim[y→+∞]yα∫[0,1]tα(1-t)y-1-αdt/t
となり、yt=zとおけば、この式は
lim[y→+∞]∫[0,y]zα(1-z/y)y-1-αdz/z
となります。積分を[0,y]の指示関数I[0,y]をつかって
∫[0,∞]zα(1-z/y)y-1-αI[0,y]dz/z
とすれば、被積分関数の絶対値はzRe(α)e-z/zで上から押さえられます。
被積分関数をzRe(α)e-z/zに置き換えれば、これはガンマ関数の定義そのものです。
よって、ルベーグの収束定理から、積分と極限を入れ替えられて、求める極限は
∫[0,∞]lim[y→+∞]zα(1-z/y)y-1-αI[0,y]dz/z
=∫[0,∞]zαe-zdz/z
=Γ(α)となりますから
lim[d→+0]dα/Β(α,x/d)=xαΓ(α)/Γ(α)=xα
となる事がわかります。
Re(α)≦0の場合には|Re(α)|<mとなる自然数mをとってやれば
Γ(x/d+α+m)=(x/d+α+m-1)(x/d+α+m-2)…(x/d+α)Γ(x/d+α)なので
fα(x)=dα+mΓ(x/d)/Γ(x/d+α+m){Π[k=0,m-1](x+(α+k)d)}-1
となり、Re(α)>0の場合に帰着します。


単純なベキ関数を差分化するとガンマ関数が出てくる。
「世の中上手くいかないねぇ」というお話。
さて、微分に対する差分があるなら、当然積分に対する和分が考えられます。
微分積分学の基本定理」が自明に成り立つありがたい世界なわけですが
微分では閉じていたベキ関数の世界は積分では閉じていません。
対数関数log(x)が登場します。差分化された世界で対数関数はどうなるのか。
実は対数関数においてもガンマ関数がかかわってきます。
この辺もそのうちまとめようと思います。
(というかまだよくわかってないところもあるのですが。)