TKSS等の日記

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SL2(Z)について

特殊線型群SL2(Z)というのは2次正方行列のある部分集合です。
定義の仕方はいろいろあると思いますが、オーソドックスなのは
\large SL_2(\mathbb{Z})=\{\begin{pmatrix} a&b\\c&d\end{pmatrix}|a,b,c,d\in\mathbb{Z}\quad ad-bc=1\}
という物です。平たく言うと
「図形の面積を変えない1次変換で成分が整数の2次正方行列で表せるもの」となります。
もっとずっと広いクラスとして
\large GL_2(\mathbb{R})=\{\begin{pmatrix} a&b\\c&d\end{pmatrix}|a,b,c,d\in\mathbb{R}\quad ad-bc\neq 0\}
という(R成分)一般線型群があって、これは
「次元を退化させない1次変換全体」になります。
(そもそも1次変換て次元を変えないんだったっけ?)


これらの線型群はもちろん線形代数で重要になるのですが数学の他の場面でも
よく見かける存在です。
例えばGLの類はLie群なのでそういった方面でも出てきますし、
群の表現論の常連でもあります。
またSLは複素平面Cへの作用として1次分数変換(メビウス変換)とみなす事も出来ます。
この辺は保形関数の理論なんかともかかわってきます。


とまぁとにかく超重要なものなわけですが、今回は純群論的な内容で
SL2(Z)が有限生成、もっと言って
-I=\begin{pmatrix} -1&0\\0&-1\end{pmatrix}\quad S=\begin{pmatrix} 0&-1\\1&0\end{pmatrix}\quad T=\begin{pmatrix} 1&1\\0&1\end{pmatrix}
という3つの元から生成されるという事を示します。
これもいろいろとやり方はあるんですが、任意の元を上の3つの元に分解する
具体的なアルゴリズムの存在を示すことを目標とします。
今回はその下準備です。


補題
A=\begin{pmatrix} a&b\\c&d\end{pmatrix}\in SL_2(\mathbb{Z})についてabcd=0ならA\in\langle-I,S,T\rangle

abcd=0からa,b,c,dのどれか少なくとも1つは0となる。
A=\begin{pmatrix} a&b\\c&d\end{pmatrix}\quad SA=\begin{pmatrix} c&d\\-a&-b\end{pmatrix}\quad AS=\begin{pmatrix} b&-a\\d&-c\end{pmatrix}\quad SAS=\begin{pmatrix} d&-c\\-b&a\end{pmatrix}
という4つの行列を考えるとa,b,c,dのどれが0であっても
(2,1)成分が0となる物がある。
上の4つの行列のどれかについて、それが\langle-I,S,T\rangleの元である事が示せれば
A\in\langle-I,S,T\rangleが示せた事になるので
c=0として一般性を失わない。
A∈SL2(Z)からad-bc=1であるのでc=0より
ad=1となる。a,dはともに整数であるから、a=d=1もしくはa=d=-1となる。
a=d=-1のときはAの代わりに-IAを考えることでa=d=1の場合のみ考えれば
十分である事がわかる。
以上よりa=d=1,c=0の場合を考えれば良い事がわかった。ゆえ
A=\begin{pmatrix} 1&b\\0&1\end{pmatrix}となるが、これは実はTbである。
なぜなら、まずb=0のときはT0=IよりOK。
自然数kについて
T^k=\begin{pmatrix} 1&k\\0&1\end{pmatrix}と仮定すると
T^{k+1}=T^k T\begin{pmatrix} 1&k\\0&1\end{pmatrix}\begin{pmatrix} 1&1\\0&1\end{pmatrix}=\begin{pmatrix} 1&k+1\\0&1\end{pmatrix}
ゆえ帰納的にすべての自然数kについて成り立つ事がわかる。
またTk逆行列を考えれば、すべての整数で成り立つ事がわかる。


よってA=TbとわかりA\in\langle-I,S,T\rangleが言えたことになる。


この結果から、Aに-I,S,Tを掛けていく事である成分を0にする事が出来れば
Aが-I,S,Tの冪積で書けることがいえるということになる。
ということで、ある成分を0にするようにS,Tを掛けていくアルゴリズムを見つければ
(-Iはかけても成分の絶対値が変わらないのでとりあえず除外)
目的のアルゴリズムになる事がわかります。
これを達成するアルゴリズムは割と簡単な物に出来ます。以下次回。